「僕はネコになりたい」――動物写真家・岩合光昭さんが、日本で、海外で出会ったネコたちそれぞれへの想いを、写真とエッセイでつづった“恋文”写真集が『ネコへの恋文』です。ネコたちのイキイキとした姿はもちろん、岩合さんがネコたちに向ける優しいまなざし、あふれる愛を感じることができる、魅力たっぷりの1冊です。

体裁
B5変形判・並製・104ページ。定価:本体1,400円+税。ISBN:978-4-8222-6190-0。発行:日経BP社。発売:日経BPマーケティング。2016年10月3日発売。
もくじ
- 拝啓 ネコ様
- 大きくなったね
- 気持ちいいね
- 楽しそうだね
- 仲がいいね
- あったかいね
- また会おうね
- おわりに
解説
『ネコへの恋文』は、著名な動物写真家である岩合光昭氏が著した、心温まるエッセイ写真集です。この本は、岩合氏が日本国内外で出会ったさまざまなネコたちへの深い愛情を、美しい写真と優しい言葉で表現したものです。タイトルにある「恋文」という言葉が示すように、各ネコに対する個人的な想いが、ラブレターのように綴られています。岩合氏の代表的な言葉「僕はネコになりたい」は、本書のテーマを象徴しており、ネコの視点に立って彼らの世界を理解しようとする姿勢が感じられます。
まず、著者の岩合光昭氏についてご紹介しましょう。岩合氏は、1950年生まれの動物写真家で、地球上のあらゆる地域をフィールドに活躍しています。父親である動物写真家の岩合徳光氏の影響を受け、幼少期から動物に親しみ、写真の道へ進みました。特に、ネコの撮影に情熱を注いでおり、NHK BSプレミアムの人気番組『岩合光昭の世界ネコ歩き』で世界中のネコを追いかける姿が多くのファンを魅了しています。氏の写真は、単なる記録ではなく、被写体の生命力や感情を捉える独自のスタイルが特徴です。コントラストの強い色彩や、想像力をかきたてる構図で、国際的に高い評価を得ています。この本は、そんな氏のライフワークであるネコ撮影の集大成的な一冊と言えるでしょう。
本書の構造は、目次からもわかるように、ネコたちへの挨拶から始まり、さまざまなテーマごとに章立てされています。各章では、岩合氏が撮影した美しい写真とともに、短いエッセイが添えられています。これにより、視覚と文章の両面からネコの魅力を堪能できます。全体を通じて、ネコたちの自然な表情や行動が生き生きと描かれ、読む者に癒しと喜びを与えます。写真はカラー中心で、104ページというコンパクトなボリュームながら、内容は充実しています。
それでは、各章の内容を順に解説していきましょう。まず、「拝啓 ネコ様」は、本書の導入部です。ここでは、岩合氏がネコたちへの敬意を表し、全体のトーンを設定します。ネコを「様」と呼ぶユーモラスな表現が、氏の愛情の深さを表しています。続く「大きくなったね」では、子ネコから成猫への成長をテーマに、時間の経過を感じさせる写真が並びます。例えば、日本のある漁村で出会った子ネコが、月日を経て立派に育った姿を追うエピソードが、心を温かくします。この章は、ネコの生命のダイナミズムを強調し、読者に成長の喜びを共有します。
次に「気持ちいいね」は、ネコたちのリラックスした瞬間を捉えた章です。日向ぼっこをするネコや、毛づくろいをする様子が、写真を通じて伝わってきます。岩合氏のエッセイでは、そんな日常のささやかな幸せを、優しい言葉で描写しています。例えば、ギリシャの島で出会ったネコが、青い海を背景にくつろぐシーンは、絵画のような美しさです。この章を読むと、ネコの「気持ちいい」表情に、自分もリラックスした気分になります。
「楽しそうだね」では、ネコたちの遊び心あふれる姿が焦点です。じゃれ合う子ネコたちや、好奇心旺盛に周囲を探検する様子が、活気ある写真で表現されます。海外の路地裏や日本の庭先で撮影された多様なシーンが、ネコの個性を際立たせます。岩合氏はここで、ネコの無邪気さを讃え、人間社会のストレスを忘れさせるようなエッセイを添えています。この章は、特にネコ好きの読者に元気を与えるでしょう。
「仲がいいね」は、ネコ同士やネコと人間の関係性をテーマにした章です。家族のようなネコの群れや、地元の人々と共生するネコの写真が、心を和ませます。例えば、イタリアの村で出会ったネコたちが、寄り添う姿は、友情や絆の象徴です。エッセイでは、岩合氏がそんな関係性を観察した感動を、丁寧に語っています。この章を通じて、ネコがもたらす調和の大切さを学べます。
「あったかいね」では、温かさを感じるシーンが集められています。冬のネコが暖を取る姿や、母ネコが子を温める様子が、感動的です。岩合氏の写真は、光と影の使い方が絶妙で、温もりを視覚的に伝えます。エッセイでは、ネコの体温や心の温かさを、詩的な言葉で表現しています。この章は、寒い季節に読むと特に心地よいでしょう。
「また会おうね」は、再会や別れをテーマにした章です。岩合氏が何度も訪れた場所のネコたちとのエピソードが、ノスタルジックに描かれます。例えば、クロアチアの港町で出会ったネコとの別れのシーンは、切なくも美しいです。この章は、本書のクライマックスとして、永遠の絆を強調します。
最後の「おわりに」では、岩合氏が全体を振り返り、ネコへの感謝を述べています。ここで、氏のネコに対する哲学がまとめられ、読者に余韻を残します。
本書の魅力は、なんと言っても岩合氏の写真のクオリティです。プロの技が光る構図と照明で、ネコの毛並みや表情がリアルに再現されています。また、エッセイは簡潔ながら、深い洞察に満ちており、ネコの行動を人間の感情に重ねて解釈します。これにより、ネコを単なる動物ではなく、パートナーとして見る視点が養われます。ネコを飼っている人、飼いたい人、または動物好きの人に特におすすめです。
さらに、この本は2016年の発売当時、ネコブームのなかで注目を集めました。番組との連動もあって、多くのメディアで取り上げられました。読後には、ネコの可愛らしさに改めて気づき、日々の生活に癒しを求めるきっかけになるでしょう。岩合氏の他の作品、例えば『ねこ』や『世界ネコ歩き』シリーズと合わせて読むと、より楽しめます。
総じて、『ネコへの恋文』は、写真と言葉のハーモニーが素晴らしい一冊です。ネコの多様な魅力を通じて、生命の尊さや愛の形を教えてくれます。丁寧な作りと温かな内容で、幅広い年齢層に愛されることでしょう。



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